バーベキューの話をしていると、ときどき「本場のやつって、お肉に半日くらいかけるんでしょう?」と聞かれます。そうなんですよね。アメリカンBBQのロー&スロー、つまり低い温度でゆっくり火を通す焼き方は、大きな塊肉だと12時間、下ごしらえの一晩まで入れれば丸一日仕事になることも珍しくありません。夜明け前に火を起こして、白い煙がまっすぐ立ちのぼるのを確かめながら、あとはただ肉が育つのを待つ。温度計をちらりと見ては、また椅子に座る。あの、何もしていないようで火とずっと対話しているような時間そのものが好きだという方の気持ちも、個人的にはすごくよく分かります。

それでも私たちYORON BBQは、その時間をあえて5〜6時間まで縮めました。今日はその「半分にする」という決断が、どこから来たのかをお話しさせてください。技術を薄めたわけでも、手を抜いたわけでもないんです。むしろ、いちばん大事にしたいものを守るための選択でした。

12時間には、12時間の美しさがある

まず正直に書いておきたいのですが、本場の12時間を否定する気持ちはまったくありません。蓋を閉めたグリルの中で、間接的な熱がじわじわと肉の繊維をほどいていく。急がないからこそ、外は香ばしく、中はほろりと崩れる——あの科学と忍耐の積み重ねは、本当に美しいものです。私たちも、蓋付きグリルの熱対流のロジックも、焦がさずに水分を保つ考え方も、そこからまるごと受け継いでいます。だから読みものの中でも、アメリカンBBQそのものの話はこれからも残していくつもりなんです。あの世界に憧れて火を囲みはじめた方が、私たちと同じ場所にたどり着けるように。

ただ、その憧れを日本の暮らしにそのまま持ち込もうとすると、どうしても無理が出るんですよね。丸一日を調理だけに差し出せる週末って、多くの人にとってそんなに何度も訪れません。前日の夜から仕込みを始めて、当日は朝から火の番。気づけば「楽しみ」だったはずのものが「やり遂げる行事」に変わっていく。バーベキュー場やグランピングの施設も、たいていは5〜6時間の利用を前提にしています。12時間を貫こうとすると、場所選びから逆算しなければいけなくなる。憧れが、いつのまにか「ハードルの高い趣味」になってしまうんです。私たちは、その入口の重さを、どうにかしたいと思いました。

削ったのは時間ではなく、ハードルでした

私たちが本当に届けたいのは、じつは「美味しい」の一歩先にあるものです。火を囲んでいるうちに、その場の空気がふっと変わる瞬間。さっきまで初対面だった人と、いつの間にか肩を並べてトングを持っている。会話が深くなったり、逆に何も話さなくても居心地がいい時間が流れたり。目を閉じてひと口味わって、思わず幸せな気持ちにアクセスしてしまう、あの感じ。焼くテクニックそのものより、そっちが本丸なんですよね。

だとすると、大事な問いはこうなります。その体験は、12時間かけないと生まれないものなのか。私たちの答えは「いいえ」でした。場の空気が変わるのに必要なのは、丸一日の忍耐ではなくて、みんながちゃんとその場に居られる長さなんです。長すぎると、途中で疲れてしまったり、誰かが先に帰る算段を始めたりして、いちばん大事な「一緒に居る」が細っていく。せっかく火を囲んでいるのに、最後は片づけと時計ばかり気にしている——そんな終わり方は、私たちのいちばん避けたい景色でした。だから私たちは、時間を削ったのではなく、参加へのハードルを削ったんだと思っています。

5〜6時間だからできる、熱々の多品種

時間を縮めると決めたことで、逆にできるようになったこともあります。それが「熱々を、出来立てで、いろいろな種類で」という食べ方です。塊肉ひとつをどーんと出すのは、最初のひと目こそ迫力がありますが、それだけだと途中でちょっと単調になりますし、切り分けるころには冷めてしまいがちなんですよね。冷めた肉にソースをかけて味を足すのは、せっかくのポテンシャルを最後にごまかしているようで、少しもったいない。

だったら、と考えました。ふつうのスーパーで手に入る食材を、肉を二〜三種類、それに魚介や野菜を混ぜて、焼けた順に熱いまま回していく。杉板にのせたサーモンやホタテ、パイナップルと一緒に焼くスペアリブ、グリルしたトウモロコシやアスパラ。次に何が上がってくるんだろう、という小さな期待が、皿から皿へと食卓を巡っていく。誰かの「これ美味しい」がきっかけで会話が生まれて、また次のひと皿を待つ。この「少しずつ、多種多様に、常に熱々で」という食べ方こそ、じつは日本人の食の本音に近いんじゃないかと思っているんです。

もちろん、種類を増やすほど安全への目配りは欠かせません。私たちは火入れの基準をはっきり決めていて、鶏・豚・牛それぞれに中心まで火が通る温度を必ず確認しますし、杉板も焼く前にしっかり水に浸してから使います。こうした衛生管理は、多品種を回すときこそ徹底しています。だからこそ、一皿ずつ安心してお出しできるんですよね。技術の細かい話はACADEMYにまとめてありますので、気になる方はのぞいてみてください。

その5〜6時間が、人と人をつなぐ火になる

私たちがこの取り組みで最終的に目指しているのは、「今夜飲みに行こう」と同じくらい気軽に「今週末BBQしよう」と言い合える文化をつくることです。テクノロジーで暮らしが便利になるほど、スマホを置いて、リアルに顔を合わせて火を囲む時間は、静かに貴重になっていく気がしています。蓋付きグリルが肉を育ててくれている間、私たちは同じ火を眺めながら、無理に言葉を紡がなくてもいい時間を共有できる。パチパチと爆ぜる音と、立ちのぼる香りだけがそこにある。あの無言すら心地よい時間こそ、私たちがいちばん残したいものなんです。

その時間を12時間に伸ばしても、心地よさが二倍になるわけではありません。むしろ、みんなが最後まで笑顔で居られる長さに整えることのほうが、ずっと大切でした。5〜6時間という長さは、思想を語るための数字ではなくて、あなたの週末にちゃんと収まってほしいという願いから決めた数字なんですよね。かっこいい理屈が先にあったのではなく、隣にいる人の顔を思い浮かべた結果、この長さに落ち着いた。それが正直なところです。

今日からできる、小さな一歩

もしこの考え方が少しでも面白いと思ってくださったら、まずは次の休みに「全部で何時間で終わらせるか」を先に決めてから献立を組んでみてください。ゴールの時間から逆算すると、塊肉一本にすべてを賭けるより、二〜三種類を熱いうちに回すほうが場が弾むことに、きっと気づけると思います。焼き上がりを待つ時間には、隣の人と一緒に食材にラブ(スパイス)をまぶしてみるのもおすすめですよ。手を動かす共同作業がひとつ入るだけで、その場への没入感がぐっと変わるんです。役割ができると、人はその場の主役になれるんですよね。

YORON BBQでは、誰でも手ぶらで参加できる月1回のオープンな会をひらいています。焼き方を教わりに来ても、ただ火のそばで過ごしに来ても大丈夫です。5〜6時間という、ちょうどいい長さの火を、よかったら一緒に囲みませんか。詳しくは月1BBQのご案内からのぞいてみてくださいね。