与論島でBBQをやらせてもらうたびに、いつも思うことがあるんですよね。ここは、私たちの場所じゃないんだな、と。島の外から来た私たちが、火を囲んで、煙を上げて、人を集めて、楽しい時間をつくらせてもらっている。その「させてもらっている」という感覚を、どれだけ忘れずにいられるか。それが、よそ者がこの島で続けていけるかどうかの、たぶん一番大事なところなんです。
YORON BBQという名前を背負っている以上、避けては通れないテーマだと思っています。火の付け方や段取りの話なら、いくらでも技術として語れます。でも今日書きたいのはそこではなくて、もっと手前にある、島との距離の取り方についてです。うまく言葉にできるか自信はないのですが、個人的に気をつけていることを、隣で火を見ながら話すくらいの温度で書いてみますね。
「与論でやる」ことの重さを、軽く考えない
私たちのBBQは、もともと与論の食材が成立条件になっているわけではありません。普通のスーパーで手に入るもので、どこでも再現できる。それがYORON BBQの考え方の芯にあります。じゃあなぜ「与論」を名前に冠しているかというと、この島には「飲みに行こう」がそのまま「BBQしよう」になっている、特別な文化が根づいているからなんですよね。
夕方になると、どこからともなく煙の匂いが流れてくる。火を囲んで、肉を焼いて、人が自然に集まる。それが特別なイベントではなく、日常として成り立っている場所は、日本にはほとんどありません。与論島にはそれがある。私たちはその文化に憧れて、リスペクトして、名前をお借りしているわけです。だから「与論でやる」というのは、観光気分で島にお邪魔することとは、ちょっと意味が違うと思っています。
島の方々が長い時間をかけて育ててきた空気のなかに、外から来た私たちがお邪魔している。その前提を軽く扱った瞬間に、YORON BBQという名前は、ただの借り物になってしまうんですよね。名前をいただいている以上、そこへの敬意は、何よりも先に置いておきたいと個人的には思っています。言葉にすると大げさですが、要は「お邪魔している側なんだ」という立ち位置を、どんなに慣れても手放さない、ということなんです。
島を「めずらしいもの」として消費しない
外から来た人間が一番やってしまいがちなのが、島を物珍しさで語ることだと思うんです。「のどかで」「ゆったりしていて」「都会とは違って」——こういう言葉って、一見ほめているようでいて、実は島を自分たちの物語の背景として使ってしまっている。そこに暮らしている方々からすれば、めずらしくもなんともない、ただの毎日なんですよね。
だから私たちは、島を「舞台装置」みたいに扱わないように気をつけています。きれいな海も、ゆるやかな時間も、私たちのイベントを引き立てるための素材ではなくて、島の方々が普通に生きている生活の一部です。そこには仕事があって、家族があって、季節ごとの忙しさがある。私たちが「癒やし」として消費しているものは、誰かの暮らしそのものなんです。お借りしている、という感覚を持てるかどうか。ここが、敬意の分かれ道だと感じています。
私たちがやりたいのは、島をネタにして盛り上がることではありません。島にある「集まる文化」そのものから学んで、それを日本中に広げていくことです。主役は私たちではなくて、この島が育ててきた空気のほうなんですよね。私たちは、その空気の運び手でいられたら十分なんです。
場所をお借りするときの、小さな礼儀
島の施設をお借りしてBBQをやらせてもらうとき、私たちが地味に大事にしていることがあります。来たときよりもきれいにして帰る、ということです。
以前、去り際のつくり方について書いたことがありますが、島での片づけには、また少し違う意味が乗ってくるんですよね。私たちはその日限りで帰る人間かもしれないけれど、その場所は、明日も明後日も島の方々が使い続ける場所です。炭の始末、油の処理、ゴミの持ち帰り。当たり前のことなんですが、この当たり前を一度でも雑にやったら、次はもう貸してもらえない。信頼って、積み上げるのは時間がかかるのに、崩すのは一度で十分なんですよね。だからこそ、その緊張感を、むしろ心地よいものとして持っていたいと思っています。
食品衛生についても、島だからと気をゆるめることは一切しません。肉の火入れは、鶏も豚も牛も、安全に食べられる温度を基準にして徹底しています。蓋付きグリルの間接熱でじっくり通すやり方は、焦がさずに中までしっかり火を入れられるので、安心して出せる。暑い土地だからこそ、ここは一段と神経を使うところです。お客様に食べ物として不安を感じさせないことは、場所を貸してくださる島の方々への礼儀でもあると考えているんですよね。借りた場所で誰かがお腹を壊すようなことがあれば、それは島への恩を仇で返すことになってしまいますから。
「続けさせてもらう」ために、急がない
よそ者が一番やりがちな失敗は、たぶん「急ぐ」ことだと思うんです。早く認知を広げたい、早く大きくしたい。その気持ちはもちろんあります。でも、島との関係は、こちらのスピードで進められるものではないんですよね。相手には相手の時間の流れがあって、そこに無理やり自分のペースを押し込んだ瞬間に、関係はぎくしゃくし始める。
一度のイベントでどれだけ売れたか、という数字は、確かにうれしいものです。用意したバーガーが数時間で売り切れて、行列ができた日もありました。でも、その数字よりずっと大事なのは、「また来てね」と言ってもらえる関係が続いているかどうかなんです。一回きりの打ち上げ花火なら、誰でも上げられる。続けさせてもらえるかどうかは、もっと静かなところで決まっていきます。
グリルを島の施設に贈ったとき、その喜ばれ方が本土とはまるで違ったことがありました。肉を焼くこと、火を囲むことそのものを喜ぶ土壌が、この島にはあるんだなと、あらためて感じた瞬間でした。だからこそ、こちらの都合で押しつけるのではなく、島のリズムに合わせて、ゆっくり関係を育てていきたい。SLOW FIREという言葉は、火の入れ方だけじゃなくて、島との付き合い方にもそのまま当てはまるな、と個人的には思っています。じっくり、弱火で、焦らずに。関係も、そうやって中まで火が通っていくものなのかもしれません。
今日からできる、ひとつの小さなこと
これは島の話に限らないのですが、どこかの場所を借りてBBQをやるときに、ひとつだけおすすめしたい習慣があります。火をつける前に、その場所に「お邪魔します」と心のなかで言ってみることです。
ばかばかしく聞こえるかもしれません。でも、この一言を置くだけで、片づけの丁寧さも、まわりへの気づかいも、不思議と変わってくるんですよね。ここは自分の場所じゃない、お借りしている場所なんだ、という感覚が、自然と手の動きに乗ってくる。終わったあとに地面をぐるっと見回して、来たときより少しでもきれいになっていたら、その日はもう成功だと思っていいくらいです。場をつくる側の心得って、案外こういう小さなところから始まるのかもしれません。
島のリズムに、こちらが合わせる
私たちは、これからも島の外から来た人間として、この距離感を忘れずにいたいと思っています。もし火を囲む時間に興味を持ってくださったら、月に一度のオープンなBBQに手ぶらで遊びに来てみてくださいね。島への敬意も、場づくりの心得も、結局はひとつの火を囲みながら、少しずつ伝わっていくものだと思っていますから。